全員に頷いてもらう必要はない
Leading Multi-Stakeholder Projects
クライアント側の担当者、上長、複数の部署、時には社外のパートナーまで、一つの案件に関わる人数は増えていきます。人数が増えるほど、プロジェクトは途端に舵取りが難しくなります。全員の意見を平等に取り入れようとすればするほど、かえって前に進まなくなるという逆説的な状況も珍しくありません。今回は、ステークホルダーが多い案件をディレクターとしてどう舵取りするか、具体的な進め方を解説します。
目 次
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なぜステークホルダーが多いと難しくなるのか
ステークホルダーが多い案件が難しいのは、単純に確認する相手が増えるからだけではありません。それぞれの立場によって「良いプロジェクト」の定義そのものが異なるという点が、本質的な難しさです。
現場担当者は使いやすさを、上長は投資対効果を、広報部門はブランドイメージを重視します。このように、同じ案件を見ていても評価軸はバラバラなことがほとんどです。この状態を放置したまま進めると、誰か一人の意見を通すたびに、別の誰かの不満が積み重なっていきます。
さらに厄介なのは、それぞれのステークホルダーが「自分の意見こそが全体最適である」と信じているケースが多いことです。悪意があるわけではなく、単に見えている範囲が違うだけなのですが、その前提の違いに気づかないまま議論を進めると、話が噛み合わないまま感情的な溝だけが深まっていきます。
起きやすい3つの問題
意見の衝突が、個人の対立に見えてしまう
異なる立場からの意見がぶつかることがあります。これは本来「立場の違い」による自然な現象です。しかし、担当者同士の感情的な対立のように扱われてしまうことも少なくありません。こうなると、本質的な議論よりも人間関係の調整に時間が取られてしまい、プロジェクト自体の進行が二の次になってしまいます。
誰の合意が最終決定になるのかが曖昧
ステークホルダーが多いほど、最終的に誰の判断をもって決定とするかが不明確になりがちです。全員の合意を待とうとすると、一人でも意見が違う人がいる限り、いつまでも結論が出ません。特に、決定権を持つはずの人がその場にいない会議で議論だけが進んでしまうと、後になって「そんな話は聞いていない」と覆されるリスクも高まります。
情報の非対称が生まれる
全員が同じ会議に出席できるわけではないため、誰がどこまで情報を把握しているかにばらつきが生じます。ある会議で決まったことが、別の会議に出ていなかった人には伝わっておらず、後から「聞いていない」という揉め事につながることもあります。この情報のばらつきは、関わる人数が増えるほど幾何級数的に大きくなっていきます。
舵取りのための具体策
各立場の「代表窓口」を一本化してもらう
部署やチームごとに複数の意見が出る可能性がある場合は、それぞれの中で一人の代表窓口を立ててもらいます。そのうえで、社内調整を済ませた意見だけを届けてもらう形にします。ディレクターがすべての個別意見を直接さばこうとすると、収拾がつかなくなります。窓口となる担当者には、あらかじめ「意見をまとめた上で一つの声として届けてほしい」という期待値を伝えておくとスムーズです。
「誰が決めるか」を最初に明文化する
プロジェクトの初期段階で、最終的な決定権を持つのが誰かを明確にし、関係者全員に共有しておきます。全員の合意を目指すのではなく、意見を聞いた上で最終的に一人(または少人数)が判断するという前提を先に作っておくことで、議論が無限に長引くことを防げます。これはキックオフの場で一度確認しておくだけでも、後々の混乱をかなり減らせる効果があります。
優先順位を、言葉ではなく順位として可視化する
「どれも大事」という状態のままでは、対立が起きたときに判断基準がありません。プロジェクトの初期段階で、関わる全員に「絶対に譲れないもの」「できれば実現したいもの」「今回は見送ってよいもの」を整理してもらい、優先順位として可視化しておきます。対立が起きたときは、この優先順位に立ち返ることで、感情的な議論を避けやすくなります。表やシートの形で残しておくと、後から見返す際にも役立ちます。
決定事項は、関係者全員に同じ形で共有する
会議に出席していない人にも、決定事項と、その決定に至った理由を同じ形式で共有します。決定内容だけを伝えると「なぜそうなったのか」が伝わらず、後から蒸し返される原因になります。背景まで含めて共有することで、情報の非対称を減らせます。議事録をただ配布するのではなく、要点をまとめた一言を添えるだけでも、伝わり方は大きく変わります。
定例の場を「報告」ではなく「合意形成」の場にする
ステークホルダーが多い案件ほど、定例ミーティングが単なる進捗報告会になりがちです。誰かが状況を読み上げるだけの時間になってしまうと、参加者の関心は薄れ、本当に議論すべき論点が後回しにされてしまいます。定例の冒頭で「今日決めたいことは何か」を明示し、報告は資料の共有に任せて、会議の時間そのものは合意形成に使うという意識を持つと、限られた時間の使い方が大きく変わります。
エスカレーションのルートをあらかじめ決めておく
現場レベルでは判断がつかない論点も出てきます。そうした場合に誰へどう相談すればいいのか、エスカレーションのルートをプロジェクトの初期段階で決めておきます。このルートが曖昧なままだと、両極端な事態が起こりやすくなります。担当者が個人の判断で抱え込んでしまうか、逆に些細な内容まで上位の決裁者に持ち込まれ、意思決定のスピードが落ちてしまうかのどちらかです。
対立が起きたときの向き合い方
ステークホルダーが多い案件では、対立そのものを完全になくすことはできません。大切なのは、対立が起きたときに「誰が正しいか」ではなく「プロジェクトのゴールに対して、どちらがより貢献するか」という軸で議論を引き戻すことです。
ディレクターがどちらか一方の味方につくのではなく、両者の意見を一度受け止めた上で、あらかじめ共有しておいた優先順位や決定権のルールに沿って、中立的に着地点を示す姿勢が求められます。この中立性は、一朝一夕で築けるものではなく、日頃から特定の立場に偏らない振る舞いを積み重ねることで、初めて信頼される土台になります。
舵取りに失敗しやすいパターン
舵取りにつまずくディレクターに共通するのが、声の大きいステークホルダーの意見を、無意識のうちに優先してしまうパターンです。発言力のある人の意見を通しやすい流れになると、他のステークホルダーは次第に発言を控えるようになり、表面上は合意が取れているように見えても、実際には不満がくすぶり続けている状態が生まれます。
もう一つのよくある失敗は、全員の顔を立てようとして、決定そのものを先延ばしにしてしまうことです。摩擦を避けたい気持ちは自然なものですが、決定が遅れるほどスケジュール全体への影響は大きくなり、結果的にすべてのステークホルダーにとって不利益な状況を招いてしまいます。
さらに、途中から新しいステークホルダーが加わった際に、それまでの経緯や合意事項の共有を怠ってしまうケースも要注意です。新しく加わった人は、当然ながらそれまでの議論の流れを知りません。この状態で意見を求めると、既に一度検討して見送った案が蒸し返されたり、積み上げてきた合意が振り出しに戻ったりすることがあります。新しい関係者が加わるタイミングでは、決定事項と背景をまとめた資料を用意し、短時間でもキャッチアップの機会を設けることが、手戻りを防ぐ上で効果的です。
ステークホルダーマップで関係性を整理する
関わる人数が多くなってきた案件では、頭の中だけで関係性を把握しようとせず、ステークホルダーマップとして書き出しておくことをおすすめします。それぞれの立場が「意思決定への影響力」と「プロジェクトへの関心度」のどちらが高いかを軸にして整理すると、誰への説明を厚くすべきか、誰への確認は簡潔で済ませてよいかが見えてきます。
影響力も関心度も高い人には、こまめな個別説明を。影響力は高いが関心度が低い人には、要点だけを簡潔に。関心度は高いが影響力が低い人には、意見を聞く場を設けつつも決定はあくまで別軸で行う、というように、関わり方を立場ごとに調整することで、限られた時間と労力を効果的に配分できるようになります。
まとめ
ステークホルダーが多い案件では、全員の意見を平等に扱おうとすることが、かえってプロジェクトを停滞させる原因になります。代表窓口の一本化、決定権の明確化、優先順位の可視化、決定事項の一貫した共有、そしてステークホルダーマップによる関わり方の整理。これらを事前に設計しておくことが、多くの関係者を巻き込む案件を前に進めるための現実的な舵取り方法です。
こうした設計は、一度作って終わりではなく、プロジェクトの進行にあわせて見直していくものでもあります。関係者の顔ぶれやプロジェクトのフェーズが変わるたびに、優先順位や共有の仕方を微調整していく姿勢が、長期にわたる案件ほど求められます。
もし今、関わる人数が多い案件でどこから手をつければいいか迷っているなら、進行の設計そのものを整理するタイミングかもしれません。ゲツコーギルドでは、ディレクション業務やWeb制作の請け負いや、体制づくりのサポート、複雑な案件のマネジメントそのものを引き受けることもできます。ご相談ください。
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作成日: 2025.10.15
更新日: 2026.08.04
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