火消しの前に火種を
The First 72 Hours of a Crisis Project
web制作の現場では「炎上案件」がしばしば発生します。そうなると、スケジュールが崩れ、要件が二転三転し、関係者の温度感がバラバラなまま進んでしまったプロジェクトは、途中からの立て直しに何倍もの労力を要します。
実際に何度も修羅場をくぐってわかったのは、炎上するかどうかの分岐点は「渦中の対応力」よりも「最初の3日間で何をしたか」で決まっているケースが圧倒的に多いということです。今回は、火が大きくなる前に押さえるべき初動の動き方について、ディレクター目線で整理していきます。
目 次
読了目安: 約4分 / 約2,100字
なぜ「初動」がすべてを決めるのか
案件がアサインされた瞬間、ディレクターの手元にある情報は基本的に不完全です。引き継ぎ資料は古く、議事録は要点しか残っておらず、関係者それぞれの認識にはズレがあります。この段階で「とりあえず手を動かしながら把握しよう」という判断をしてしまうと、後から発覚する前提の食い違いが致命傷になります。
Day1:現状把握と応急処置
初日にやるべきことは、感情を挟まずに事実だけを集めることです。具体的には以下の3点に絞ります。
- 現在のスケジュールと実際の進捗のギャップを数値で確認
- 契約範囲・見積もり範囲と、実際に発生している作業範囲の差分を洗い出す
- 直近で炎上の火種になりそうな「決まっていないのに動いている論点」を全てリストアップする
この段階で重要なのは、犯人探しをしないことです。誰が悪いかではなく、何が決まっていないかにフォーカスします。応急処置として、目の前で止血が必要な作業(公開直前の致命的な不具合やクライアントへの返答が滞っている案件など)があれば、それだけは当日中に手を打ちます。それ以外は「把握する」ことに徹する一日にします。
Day2:関係者の期待値をすり合わせる
2日目は、社内外の関係者それぞれが「このプロジェクトはどうあるべきだと思っているか」を個別にヒアリングする日にあてます。この際のポイントは、全員を一堂に集めたミーティングでこれをやると、声の大きい人の意見に他のメンバーが同調してしまい、本音が引き出せません(同調圧力)。
- クライアント担当者が本当に譲れないと思っているのはどこか
- デザイナー・コーダーが「これ以上は難しい」と感じている部分はどこか
- 自社がどこまでのリスクを許容できるか
これらは一対一、もしくは少人数の場でしか出てこない情報です。ここで拾った本音のギャップこそが、後々の炎上の火種になります。2日目の終わりには「全員が同じ紙芝居を見ている状態」を作ることが目標になります。
Day3:立て直し計画を握る
3日目には、Day1・Day2で集めた情報をもとに、現実的な計画を関係者全員に提示します。ここで大事なのは「理想のスケジュール」ではなく「守れるスケジュール」を出すことです。多くの炎上案件は、無理な計画を一度でも承認してしまったことから崩れていきます。
このタイミングで、以下を明文化して共有します。
- 今後のマイルストーンと、それぞれの承認者
- 対応範囲外になる作業と、その理由
- 週次で進捗を確認する場と、そのフォーマット
口頭で握っただけでは、数週間後に「言った言わない」の空中戦になります。テキストや資料として残すことが、後の自分たちを守ることにもつながります。
初動でやってはいけないこと
逆に、初動でやりがちな失敗もいくつか共通しています。
一つ目は、確認より先に謝罪や約束をしてしまうことです。状況を把握しきる前に「必ず立て直します」と口約束をすると、後から現実的な計画を出したときに信頼を落とす結果になりやすくなります。
二つ目は、制作メンバーのモチベーションを置き去りにしたまま、クライアント対応だけを優先してしまうことです。炎上案件ほど、実際に手を動かすメンバーの疲弊が激しくなります。初動の段階で「守るべきは現場である」という姿勢を示せるかどうかが、その後のチームの踏ん張りに直結します。
まとめ
炎上案件の立て直しというと、劇的な一手を期待されがちですが、実際に効くのは地味な初動の積み重ねです。事実を集め、本音をすり合わせ、守れる計画を握る。この3日間の動き方さえ間違えなければ、案件は必ず立て直せます。
派手さよりも、足元を固める胆力。それがディレクターという仕事の、地味だが最も重要な部分なのだと思います。
もし今、進行中の案件で「初動が切れていない」と感じているなら、外部の目を入れることで見えてくることもあります。ゲツコーギルドでは、ディレクション業務として、炎上気味の案件の立て直しをそのまま引き受けることも、体制づくりのご相談に乗ることも可能です。
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作成日: 2025.02.15
更新日: 2026.08.06
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木村ロキ
江戸下町産。WEBプロデューサー兼CEO。東日本大震災をきっかけに、場所や時間を選ばないクリエイターの働き方を体現するべく、慣れ親しんだ東京を離れ、瀬戸内海の離島へと移住。またフリーランスの地位向上と理想的なweb制作集団を構築するために、女性制作ギルド 秘密結社キユリアス(Qrious)を立ち上げるほか、地方創生や地域活性化、クリエイターの育成や再生、再起に注力し、現在3つのクリエイティブ・ギルドと1つの再生プロジェクトを運営。ボーラーハットがトレードマーク。現在は離島から東京へと戻り、新たなステージを構築中。