御用聞きも、伝書鳩もいらない。
The Director Who Steers vs. The Order-Taker
クライアントの依頼に何でも応じることは、一見すると親切に見えます。しかし、それが積み重なると、案件全体の方向性を見失う原因になります。今回は、二つのタイプのディレクターを比較していきます。頼まれたことをただこなす「御用聞きディレクター」と、プロジェクトの舵を取る「舵取りディレクター」です。両者を分ける、具体的な違いを解説します。
目 次
- 「御用聞きディレクター」とは
- なぜ御用聞きになってしまうのか
- 「舵を取るディレクター」との違い
- 舵を取るために必要な視点
- 良い提案は、断ることも含む
- 具体的なやり取りの違いを見る
- 御用聞きから抜け出すための第一歩
- #anchor8まとめ
読了目安: 約7分 / 約3,300字
「御用聞きディレクター」とは
御用聞きディレクターとは、クライアントから出てきた要望を、そのまま受け入れて実行することに終始するディレクターを指します。頼まれたことには迅速に対応し、一見すると仕事が早く、扱いやすい存在に見えます。
しかし、御用聞きディレクターには、案件全体を良くしようという視点が抜け落ちています。目の前の要望に応えることが目的化してしまいます。その要望がプロジェクト全体にとって本当に良い選択なのかを、検討する余地がなくなってしまうのです。
短期的には、こうした対応は感謝されることもあります。クライアントからすれば、言ったことがそのまま形になるため、扱いやすい相手に映るからです。しかし、この関係性は長続きしません。案件が進むにつれて、要望同士が矛盾し始めたときに、誰も交通整理をできない状態に陥ります。
なぜ御用聞きになってしまうのか
御用聞きになってしまう背景には、いくつかの事情があります。まず、クライアントの要望に反対すると、関係が悪くなるのではないかという不安です。特に付き合いの浅いクライアントに対しては、この不安が強く働きます。
また、単純に忙しさから、要望を吟味する時間を取れていないケースもあります。次々と依頼が来る中で、一つひとつを深く検討する余裕がなくなっていきます。結果として「言われた通りにやる」という対応が積み重なっていきます。
こうした事情は、必ずしも怠慢から来るとは限りません。しかし、積み重なった結果として、案件全体の方向性がクライアントの場当たり的な要望に流されてしまうことは避けられません。
さらに、経験の浅いディレクターほど、御用聞きに陥りやすい傾向があります。プロジェクト全体を俯瞰する視点は、経験を通して培われる部分が大きいものです。目の前の要望への対応で手一杯になってしまうのは、ある意味で自然な過程でもあります。大切なのは、この状態に自分自身で気づき、意識的に視点を切り替えていくことです。
「舵を取るディレクター」との違い
舵取りディレクターも、クライアントの要望をないがしろにするわけではありません。違いは、要望を受け取った後の振る舞いにあります。
舵取りディレクターは、要望を受け取った際に「この要望は、プロジェクトのゴールに対してどう作用するか」を一度考えます。ゴールに沿う要望であれば、そのまま採用します。ゴールからずれる要望であれば、代替案を添えて提案し直します。
この一手間があるかどうかが、両者を分ける最大の違いです。御用聞きディレクターは要望をそのまま実行します。一方、舵取りディレクターは、要望を一度ゴールというフィルターに通してから実行します。
舵を取るために必要な視点
舵を取るためには、まずプロジェクトのゴールを自分自身が明確に理解している必要があります。ゴールが曖昧なままでは、要望を判断する基準そのものが持てません。
また、クライアントとの関係性についての考え方も変える必要があります。関係を良くすることと、要望に何でも応じることは、本来別のものです。むしろ、プロジェクトにとって不利益になる要望もあります。そうした要望に対しては、はっきりと意見を伝える姿勢の方が、長期的には信頼を得やすくなります。
短期的な摩擦を避けるために要望を丸呑みするのか、長期的な信頼のために時には意見をぶつけるのか。この選択の積み重ねが、舵取りディレクターと御用聞きディレクターを分けていきます。
良い提案は、断ることも含む
舵取りディレクターの仕事には、要望をそのまま断ることも含まれます。ただし、単に断るのではなく、代替案を添えることが前提です。
「そのご要望どおりに進めると、こういうリスクがあります。代わりにこういう形はいかがでしょうか」というように、断る理由と代替案をセットで提示します。この形であれば、クライアントも一方的に拒否されたとは感じにくくなります。
こうした提案を積み重ねることで、クライアントの印象も変わっていきます。「このディレクターは、言われたことをやるだけの相手ではない」と感じてもらえるようになります。プロジェクト全体を考えてくれている、という信頼が、その先に積み上がっていきます。
もちろん、断る頻度が多すぎれば、単なる扱いにくい相手になってしまいます。大切なのは、代替案の質です。断る理由が明確で、代わりの提案がクライアントの利益につながっていると伝われば、印象は大きく変わります。断られたという印象よりも、頼りになるという印象の方が強く残ります。
具体的なやり取りの違いを見る
考え方だけでは掴みにくいので、簡単な例で比較してみます。クライアントから「トップページに、目立つバナーを3つ追加してほしい」という要望が来たとします。
御用聞きディレクターであれば、そのまま3つのバナーを追加して納品します。見た目には要望通りに仕上がります。しかし結果として、ページの情報量が増えすぎてしまいます。本来伝えたかったメッセージが、その中に埋もれてしまうことがあります。
舵取りディレクターであれば、まず「このバナーは、どんな成果を狙っていますか」と目的を確認します。目的が複数の商品訴求だとわかれば、代替案を提示します。「3つ並べるより、優先度の高い1つを大きく見せ、残り2つは別の導線に配置する方が、狙った成果に近づきやすいかもしれません」。目的に立ち返ると、こうした提案ができます。
同じ要望からスタートしていても、最終的な提案の質に大きな差が生まれます。この差は、要望を受け取った瞬間に「目的」まで踏み込んで考えるかどうかから生まれています。
御用聞きから抜け出すための第一歩
いきなりすべての要望に代替案を返そうとすると、かえって負担が大きくなり、続きません。まずは、明らかにプロジェクトのゴールと矛盾する要望が来たときだけ、意識的に立ち止まる習慣から始めるのが現実的です。
要望を受け取ったら、実行する前に一呼吸置いて「これはゴールに近づく要望か」と自問する。この小さな習慣の積み重ねが、やがて自然に舵を取る振る舞いへとつながっていきます。
まとめ
御用聞きディレクターと舵取りディレクターの違いは、要望への対応スピードではありません。要望を一度ゴールに照らして判断し、必要であれば代替案とともに意見を伝えられるかどうかです。
短期的には、要望をそのまま受け入れる方が摩擦は少なく見えます。しかし、長期的にプロジェクトを成功に導き、クライアントからの信頼を得るのは、舵を取る姿勢を持ったディレクターです。
この分岐点は、大きな決断の場面だけに現れるわけではありません。日々の小さな要望への向き合い方の積み重ねこそが、どちらのディレクターになるかを決めています。
もし自分の振る舞いが御用聞きに近づいていると感じるなら、要望への向き合い方を見直すタイミングかもしれません。ゲツコーギルドでは、ディレクション業務やWeb制作、ディレクション体制の構築、プロジェクトマネジメントの仕組みづくりについてのご相談も承っています。
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作成日: 2026.02.15
更新日: 2026.08.05
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