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クライアントの『なんかいい感じに』を叶えるコツ

ディレクション

「いい感じ」の正体

Decoding the Client’s “Just Make It Nice”

クライアントからの「なんかいい感じにお願いします」。このふわっとした一言だけを頼りにデザインを進めると、高い確率で認識がずれます。今回は、この曖昧な要望をどう具体的な言葉に翻訳していくか、そのコツを解説します。


目 次

  1. なぜ「いい感じに」が生まれるのか
  2. そのまま受け取ってはいけない理由
  3. 具体的に翻訳するための質問術
  4. 参考イメージを使ったすり合わせ
  5. 途中で「答え合わせ」を挟む
  6. 具体的なやり取りの流れを見る
  7. 逆に聞きすぎて失敗するパターン
  8. まとめ

読了目安:約7分 / 約3,700字


なぜ「いい感じに」が生まれるのか

クライアントの多くは、デザインやWebサイトの専門用語がわかりません。頭の中には完成イメージがあっても、それを言葉にする語彙を持っていないケースがほとんどです。

そのため、伝えやすい表現として「いい感じに」という言葉に落ち着いてしまいます。これは手を抜いているわけではありません。むしろ、うまく言葉にできないもどかしさの裏返しであることが多いのです。

担当者自身も、社内の複数の意見を一つにまとめきれていない場合があります。上司はこう言っていた、営業部門はこう考えているといった、複数の要望が頭の中で混ざり合ってしまうのです。その結果、無難な「いい感じに」という言葉に着地してしまうこともあります。

そのまま受け取ってはいけない理由

「いい感じに」を額面通りに受け取ると、ディレクターやデザイナー自身の感覚だけでデザインを進めることになります。この進め方には、大きなリスクがあります。

作り手の「いい感じ」と、クライアントの「いい感じ」は、多くの場合ズレています。このズレに気づくのは、たいてい初稿を提出した後です。そこで「思っていたのと違う」という反応が返ってくると、大きな手戻りが発生します。

さらに厄介なのは、クライアント自身も自分の「いい感じ」を正確には言語化できていないという点です。初稿を見て初めて「違う」と気づき、そこから逆算するように好みが明らかになっていく、というケースも少なくありません。だからこそ、初稿を出す前の段階で、できる限り具体的な言葉に翻訳しておく作業が重要になります。

この翻訳作業を怠ったまま制作を進めると、修正のたびに「これも違う、あれも違う」という反応が続きます。いわゆる「デザイン迷子」の状態です。結果として、当初の見積もりで想定していた工数を超えてしまい、追加の作業として扱わざるを得なくなることもあります。これが、いわゆる「無駄工数」が発生する典型的なパターンです。

曖昧な要望への対応は、単に手戻りの問題だけでなく、プロジェクトの採算や納期にも直結する論点なのです。

具体的に翻訳するための質問術

「いい感じに」を具体的な言葉に翻訳するには、選択肢を提示する質問が効果的です。「かっこいい系か、親しみやすい系か、どちらに近いですか」というように、対になる方向性を示して選んでもらいます。

抽象的な言葉のまま「どんな感じがいいですか」と問いかけても、同じように曖昧な答えしか返ってきません。選択肢を用意することで、クライアント自身も自分の好みを言語化しやすくなります。

比較対象を使うのも有効です。「競合のA社と比べると、もう少し落ち着いた印象にしたいですか」というように、具体的な対象を挙げて聞きます。すると、感覚のズレをかなり早い段階で埋められます。

「絶対に避けたいものは何ですか」と、逆方向から聞くのも効果的な手段です。人は「欲しいもの」よりも「嫌なもの」の方が、はっきりと言葉にできる傾向があります。避けたい方向性が見えるだけでも、選択肢はかなり絞り込めます。

参考イメージを使ったすり合わせ

言葉だけのやり取りには限界があります。クライアントはビジュアルで判断することが多いため、実在するサイトやデザインの参考画像を複数用意し、選んでもらう方法が効果的です。

このとき大切なのは、複数の方向性を用意することです。似たような系統ばかりを並べてしまうと、選択の意味がなくなります。あえて系統の違う3〜4パターンを見せることで、クライアントの好みがどこにあるのか、輪郭がはっきりしてきます。

選んでもらった後は「なぜ(どこが)良いと感じたか」を一言添えてもらうようにします。見た目そのものよりも、その理由の中にこそ、本当に汲み取るべき要望が隠れていることが多いのです。

参考画像を用意する際は、自社の過去の実績だけでなく、他業種のサイトも積極的に混ぜておくと視野が広がります。同業種の事例ばかりでは、クライアントの発想も同業種の枠内に留まりがちです。あえて異業種の表現を見せることで、言葉にできていなかった好みが引き出されることもあります。

途中で「答え合わせ」を挟む

要望を翻訳したつもりでも、完成形を見せるまでズレに気づけないことがあります。これを防ぐには、制作の途中で小さな答え合わせを挟むことが有効です。

答え合わせのコツは、いきなり完成度の高いデザインを見せるのではなく、方向性を絞ったラフ案の段階で小まめに確認を取ります。この段階であれば、修正も小さく済みます。「思っていたのと違う」という反応が出たとしても、被害は最小限で抑えられます。

また、この答え合わせは、トップページや共通部分だけ念入りに行えば十分です。確定した後の下層ページは展開作業が中心になるため、進捗報告を兼ねた確認程度で問題ありません。最初の段階でイメージの齟齬をなくしておくことが、結果的に全体の時間短縮につながります。

具体的なやり取りの流れを見る

考え方だけでは掴みにくいので、簡単なやり取りの流れを見てみます。クライアントから「トップページをもっといい感じにしてほしい」という要望を受けたとします。

まず「かっこいい系か、親しみやすい系か」を聞くと、「親しみやすい方に近いです」という返答がありました。次に「絶対に避けたいものは何ですか」と聞くと、「堅苦しい印象だけは避けたいです」という答えが返ってきました。

この時点で、方向性はかなり絞り込めています。ここで系統の違う参考画像を3パターン用意し、選んでもらいます。選ばれた画像に対して「なぜこれが良いと感じたか」を聞くと、返答がありました。「余白が広くて、写真が大きく使われているところ」という、具体的な理由です。

ここまでで、当初の「いい感じに」はかなり具体的な言葉に翻訳できたことになります。「親しみやすく、堅苦しくない、余白を広くとった、写真中心のレイアウト」という、実制作にそのまま使える言葉です。

こうして翻訳できた言葉は、口頭でのやり取りだけで終わらせず、簡単な一文としてテキストに残しておきます。「今回は親しみやすさを軸に、余白を広めにとった写真中心のレイアウトで進めます」といった形です。双方が見返せる場所に残しておくと、後になって「そんなつもりではなかった」という食い違いを防ぎやすくなります。

逆に聞きすぎて失敗するパターン

質問術は有効ですが、聞きすぎることにも弊害があります。あまりに細かく選択肢を提示しすぎると、クライアントは「どれも正解に見えない」状態に陥り、かえって判断に迷ってしまいます。選択肢は多ければいいというものではありません。

質問の数は、多くても3〜4回のやり取りで着地させることを目安にします。それ以上続く場合は、ディレクター側である程度の仮説を立てます。「つまり、こういう方向性でしょうか」と一度言語化して提示する方が、話が前に進みやすくなります。クライアントに答えを出させ続けるのではなく、途中からはこちらが仮説を差し出す姿勢に切り替えることが大切です。

まとめ

「いい感じに」という言葉の裏には、必ずクライアントなりの基準があります。それを言葉にできていないだけなのです。選択肢を用意した質問、参考イメージを使ったすり合わせ、そして制作途中の答え合わせ。この3つを組み合わせることで、曖昧な要望を具体的な方向性へと翻訳できます。

聞きすぎて相手を迷わせないよう、途中からは仮説を提示する側に回る。このバランス感覚も、翻訳作業の一部として意識しておきたいポイントです。

「いい感じに」という言葉は、決してなくなりません。むしろ、案件が変わるたびに何度でも登場する言葉です。だからこそ、この言葉を受け取ったときにどう動くかという型を一つ持っておくだけで、案件ごとの手戻りは着実に減らせます。

ちなみに、最初に言っていた「いい感じに」と、実際に完成したデザインが完全に一致することは、現場ではほとんどありません。ヒアリングやすり合わせを重ねる過程で、イメージそのものが正しい方向へ補正されていくからです。

もしクライアントとの認識のズレに悩まされているなら、ヒアリングの型を仕組みとして整えるタイミングかもしれません。ゲツコーギルドでは、ディレクション業務やweb制作の請負はもちろん、要件のすり合わせ方やヒアリング設計のご相談も承っています。クライアントに寄り添うコンサルティングやマネジメント面でのサポートも可能です。

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作成日: 2024.06.15

更新日: 2026.08.04

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木村ロキ

江戸下町産。WEBプロデューサー兼CEO。東日本大震災をきっかけに、場所や時間を選ばないクリエイターの働き方を体現するべく、慣れ親しんだ東京を離れ、瀬戸内海の離島へと移住。またフリーランスの地位向上と理想的なweb制作集団を構築するために、女性制作ギルド 秘密結社キユリアス(Qrious)を立ち上げるほか、地方創生や地域活性化、クリエイターの育成や再生、再起に注力し、現在3つのクリエイティブ・ギルドと1つの再生プロジェクトを運営。ボーラーハットがトレードマーク。現在は離島から東京へと戻り、新たなステージを構築中。

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