スキルは放っておいても伸びない
Producing Each Member’s Strengths
メンバーに向いてる仕事を任せる。この発想自体は間違っていません。しかし、向いてる仕事を見つけて任せるだけでは、その人の強みは十分に活きません。今回は、メンバーの「その人らしさ」をどう見つけ、育て、売り込んでいくかを解説します。プロデュースという視点からの解説です。
目 次
- 「向いてる仕事を任せる」だけでは足りない理由
- 「その人らしさ」とは何か
- その人らしさを見つける対話の技術
- 見つけた「らしさ」を育てる
- 付加価値を乗せて「売り込む」という発想
- 具体例で見るプロデュースの流れ
- プロデュースが機能しない失敗例
- まとめ
読了目安: 約7分 / 約3,300字
「向いてる仕事を任せる」だけでは足りない理由
メンバーの得意分野を見極め、向いてる仕事を任せる。マネジメントの基本として、よく語られる考え方です。実際、向いてない仕事を無理に任せるよりは、はるかに良い結果につながります。
しかし、これだけでは一歩足りません。向いてる仕事を任せられたメンバーが、その強みを自覚しているとは限らないからです。無意識にできてしまうことほど、本人にとっては「当たり前」に感じられます。価値として認識されにくい傾向があります。
強みを見つけて任せるだけでは、その強みは埋もれたままになりがちです。強みを本人に自覚させ、周囲やクライアントにも伝わる形に育てていく。この一手間が、プロデュースという発想です。
「その人らしさ」とは何か
「その人らしさ」とは、単なるスキルや得意分野を指す言葉ではありません。仕事の進め方、判断のクセ、こだわりのポイントなど、その人固有のスタイルが表れる部分を指します。
同じスキルを持つ人が二人いても、仕事の仕上がりや進め方には必ず差が出ます。この差こそが、その人らしさです。プロデュースの出発点は、この差に気づき、名前をつけることから始まります。
「私らしさ」は、本人にとってはあまりに自然な振る舞いであるため、自分では気づきにくいという特徴があります。だからこそ、マネジメントする側が、外から見た視点でその輪郭を捉え、言葉として本人に返していく役割が必要になります。
その人らしさを見つける対話の技術
その人らしさを見つける第一歩は、対話です。「なんとなく丁寧」「なんとなくセンスがいい」という漠然とした印象を、具体的な言葉に変換していきます。
過去にうまくいった仕事を一緒に振り返るのが、有効な方法の一つです。「あのとき、なぜその判断をしたのか」を掘り下げていきます。本人も気づいていなかった判断基準が、対話の中で見えてくることがあります。
もう一つの方法は、本人以外の視点を集めることです。一緒に仕事をしたデザイナーやクライアントの声を集めると、本人が自覚していない「らしさ」が浮かび上がることがあります。
一緒に仕事をしたデザイナーやクライアントの声を集めると、本人が自覚していない「らしさ」が浮かび上がることがあります。「いつも締め切りより早く動いてくれる」「相談すると必ず代替案を出してくれる」。こうした具体的な声は、そのまま言語化のヒントになります。
言語化の際は、抽象的な性格の話に終わらせないことが重要です。「几帳面」「明るい」といった性格の言葉ではなく、実際の行動や判断の中に現れる特徴として捉え直します。こうすることで、仕事に直結する強みとして扱えるようになります。
見つけた「らしさ」を育てる
見つけた「らしさ」は、放っておいても育ちません。意図的に機会を与え、繰り返し発揮させることで、初めて強みとして定着していきます。
具体的には、その「らしさ」が活きる案件を、意識的にアサインしていきます。一度発揮しただけでは、本人の中でも「たまたまうまくいった」という認識に留まりがちです。同じ強みを複数回発揮する機会を作ることで、本人の中で「自分はこれが得意だ」という確信に変わっていきます。
発揮した結果に対して、具体的なフィードバックを返すことも欠かせません。「今回のこの判断、まさに◯◯さんらしいやり方でしたね」というように、行動とらしさを結びつけて伝えます。これを繰り返すことで、本人の自己認識が育っていきます。
育てる過程では、失敗も許容する姿勢が必要です。らしさを発揮した結果が、常にうまくいくとは限りません。むしろ、うまくいかなかった経験を一緒に振り返ることで、らしさの輪郭がより明確になっていくこともあります。
同じような指導や声かけを、案件が変わるたびに繰り返すことも効果的です。都度の状況は違っても、伝える軸を一貫させることで、本人の中に「これが自分のやり方だ」という感覚が根付いていきます。
また、発揮した成果は、成果物として形に残しておくことも大切です。実際に完成したデザインやコードといった成果物は、本人にとっても後から見返せる証拠になります。こうした成功体験を積み重ねることで、「らしさ」は一時的な評価ではなく、確かな自信として定着していきます。
付加価値を乗せて「売り込む」という発想
言語化し、育てた強みは、そのままでは単なる自己理解に留まります。ここに付加価値を乗せて、クライアントや社内に向けて売り込んでいく発想が必要になります。
付加価値とは、強みを「誰の、どんな課題を解決するものか」という文脈に置き換えることです。「丁寧な仕事ぶり」という強みであれば、対象と効果をセットにして提示します。「初めて依頼する不安が強いクライアントに向いている」という形です。
この売り込みは、誇張ではありません。実際に持っている強みを、相手に伝わる言葉に翻訳する作業です。強みそのものを大きく見せる必要はなく、届くべき相手に、届く形で届けることが目的です。
ただし、この売り込みを本人の努力だけに任せきりにしても、うまくは進みません。自分自身の特徴を、市場や案件の文脈に照らして客観的に評価することは、当人にとって難しい作業だからです。ここでも、マネジメントする側が導く役割を担う必要があります。
具体的には、本人が気づいていない強みの活かし方を、マネジメント側から積極的に提案していきます。「その進め方は、実はこういう案件でこそ強く求められています」というように、本人の視点だけでは見えていない市場価値を示します。こうして初めて、「らしさ」は売り込める武器へと変わっていきます。
プロデュースとは、本人の頑張りに任せきりにすることではありません。見つけて、育てて、文脈を与えて売り込むところまで、マネジメントする側が一貫して伴走する取り組みです。
具体例で見るプロデュースの流れ
考え方だけでは掴みにくいので、簡単な例で見てみます。あるフリーランスのコーダーが、細かい仕様確認を欠かさず行うタイプだったとします。
本人はこれを「単に慎重なだけ」と捉えていました。対話を通して掘り下げると、過去の案件で仕様の見落としによる手戻りをほぼ経験していないことがわかりました。ここから「仕様の抜け漏れを事前に防ぎ、手戻りを最小化する力」という言葉に言語化します。
この強みを育てるため、仕様変更が多い案件や、他社がコーディングした不具合修正案件を続けて任せていきました。案件のたびに「今回も抜け漏れがなかったですね」「しっかり修正対応ができてますね」とフィードバックを重ねました。本人も次第にこれを、自分の武器として意識するようになりました。
次に、この強みが誰の課題に効くかを整理します。過去に仕様漏れでトラブルが多かったクライアントや、変更が多い案件との相性が良いとわかりました。紹介文には「仕様確認を徹底し、手戻りの少ない進行を得意とするコーダー」という言葉を添えてアサインします。
「慎重な人」という漠然とした印象は、「手戻りを防げる人」という具体的な価値に変わりました。社内でもクライアントからも、そのように認識されるようになったのです。
プロデュースが機能しない失敗例
プロデュースがうまくいかないケースにも、共通点があります。一つは、マネージャー側の主観だけで強みを決めつけてしまうことです。本人の実感と乖離した強みを押し付けると、本人のモチベーションはむしろ下がります。
もう一つは、言語化した強みを、実際のアサインに反映させないまま終わらせてしまうことです。強みを言葉にしただけで満足してしまうと、現場では何も変わりません。言語化は手段です。実際の仕事の任せ方やクライアントへの見せ方に反映させて、初めて意味を持ちます。
三つ目は、一度言語化した強みを固定化してしまうことです。人は経験を積むにつれて、できることも変わっていきます。半年前に言語化した強みが、今も同じ言葉で通用するとは限りません。定期的に対話の機会を設け、強みの表現そのものを更新していく姿勢が求められます。
まとめ
向いてる仕事を任せることは、プロデュースの入り口に過ぎません。その人らしさを見つけ、育て、誰のどんな課題に効くかという文脈をつけて売り込む。この一連のプロセスは、本人の努力だけでは完結せず、マネジメントする側が伴走して初めて機能します。
もしメンバーの強みをうまく活かしきれていないと感じているなら、見直しのタイミングかもしれません。その人らしさの発掘と育成を仕組みとして整えることが、その一歩になります。ゲツコーギルドでは、Web制作やディレクション、マネジメント業務を通じて、チーム制作や組織再編などのご相談も承っています。
作成日: 2023.09.15
更新日: 2026.08.07
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木村ロキ
江戸下町産。WEBプロデューサー兼CEO。東日本大震災をきっかけに、場所や時間を選ばないクリエイターの働き方を体現するべく、慣れ親しんだ東京を離れ、瀬戸内海の離島へと移住。またフリーランスの地位向上と理想的なweb制作集団を構築するために、女性制作ギルド 秘密結社キユリアス(Qrious)を立ち上げるほか、地方創生や地域活性化、クリエイターの育成や再生、再起に注力し、現在3つのクリエイティブ・ギルドと1つの再生プロジェクトを運営。ボーラーハットがトレードマーク。現在は離島から東京へと戻り、新たなステージを構築中。